ハイウイング・ストロール 小川一水 朝日ソノラマ

2003年の日本SFの一番には惜しくもなれなかったわけだが、あれは、だすのが早すぎた作品を無理やり書いてしまったところにあると個人的には思っている。それだけスパンの長い話をまとめてしまったので彼の持ち味が凝縮されすぎてそれぞれが反発してしまった作ってすぐのカレーみたいになってしまっていたのだ。あと一年ゆっくり練り直せば最高の大河ドラマになったと思う。
まあ、第六大陸についてはもう出てしまったものだから仕方ない。書き直して欲しいけどね。
さて、その後「導きの星」を完結させて待ちに待った新作。世界は雲のそこに沈んでいる。そのため、飛行機が移動手段になっている設定はもう、しびれまくる。この手があったかっ!ニーブンのスモークリングのような大掛かりな科学じゃないけど、ああ、そうか。と簡単に納得で来ちゃう設定はSF素人な人でも取っ掛かり安い。ところが、この設定は非常に奥が深い。この社会基盤を作り出すためにはこれしかない。これこそ、センスofワンダーだ。
なんてずらずらと書いてみたのだが、どうにも評価が難しくなってきた。とても面白い。これまでの小川一水にありがちだったドキュメント臭さが抜けて、物語の小道具としての技術や、世界を成り立たせるための技術がうまく融合している。少年の成長を描きながら、その世界観を描き、なぜ浮獣という存在があり、それ自身が物語を構成していく要因となっていく。その流れによどみがない。
ただし、俺が引っかかっているのは、作品そのものではない。これは仕方がないことなのかもしれないが、大河ドラマの総集編を見ているような気分にさせられるのだ。もっと、ディテールが読みたい。これまでの作品は、妙なディテールの凝り方をしていた。だから、そこだけバランスがおかしくなっていたのだが、こんどは全体的によく表現しているだけに、あとひとつ掘り下げたところが見てみたい。そういうのを高望みというのだろうけれども、この小川一水という作家にはそれを期待してしまうのだ。
ほめてんだかけなしているのかわからなくなっているが、とにかく楽しめる作品であることは間違いない。読め。